林邦洋

林邦洋というミュージシャンに、会ったことがある。あれはたしか2000年の夏、吉祥寺は井の頭公園で、秋の涼しさがかすかに忍び寄ってくる空気の中、ギターを抱えて、不思議なメロディーを歌う若者を見かけて、思わず足が止まったのだ。僕はそもそも、近辺の街角にたむろして、ストリートミュージシャンと自称しながら、歌うことへの希求も、主張すべき思想も、なにも持たない、志の低い人々が好きではなかったし、たいてい楽曲の展開など、先が読めてしまうものだから、めったに耳を傾けることはないのだが、彼が表現する音楽は、僕の予想を見事に裏切る素敵なものだった。率直で不器用な詩、どの方向に流れて行くか読めない個性的なメロディー、そしてコード進行の意外さ。ああ、世の中にはこういう才能もあるのだと、素直に感動した。彼とは特に、何を話したわけでもない。しばらくその場に座って、歌声に耳を傾け、二言三言、僕の履いていたスニーカーについて、言葉を交したに過ぎないが、僕はその足で、吉祥寺高架下の新星堂に向かい、彼がアマチュアとしてリリースしていた、数枚のCDを買ったのだった。その中のひとつ、「春雷」という曲が、僕はとても好きだ。懐かしい時代の、フォークの香りを漂わせつつ、飾り気のない言葉で歌いかける彼の声に、中学や高校の頃の、田舎道を帰る風景、高い空や、草いきれや、澄んだ空気を、まざまざと思い出して、胸の中が熱くなる。あれから、井の頭公園で、彼を見かけることは無かったが、ウェブサイトを見ると、地道に音楽活動を続けているようで嬉しい。いつか努力が実を結び、世に広く認められる時が来るのではと、期待している。ひとりのファンとして。
http://www.magnet-co.com/hayashi/

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