マーティン・デニー

マーティン・デニーが亡くなったという。享年94才。1950年代に活躍したミュージシャンであることを考えると、まだ存命だったことさえ驚きだ。1911年4月10日、アメリカ生まれ。若い頃からクラシカル・ピアノを学び、1954年にハワイに移住するまで実にさまざまなバンドのツアーに積極的に参加したと、巷の情報にある。だが、最も有名な功績は、ハワイに移住してからのものだ。マーティン・デニー、彼はいわゆるエキゾチックサウンド、今でいうところの、ラウンジミュージックを生み出した人である。ハワイ、アジア、中近東、地中海、中国、カリブ、様々な民族音楽的要素を混ぜ合わせた、渾沌とも言うべき音楽性を、アメリカ人ならではのエンターテイメント的センスによって洗練し、ほとんど、粋と言えるレベルにまで昇華させた、その楽曲は、オリジナルな楽器を縦横無尽に用いた、ライブ感たっぷりの演奏と相俟って、素敵に妖しく、美しい。彼のアルバムの中で、最も有名であろう代表曲「クワイエット・ビレッジ Quiet Village」は、1951年に盟友レス・バクスターが作曲したもの。バクスターのアルバムに収録された元のアレンジも、ひっそりと艶やかで、眠るように優雅な弦の響きを重ねた、実にロマンチックなサウンドで、洗練の極にあるが、ここはデニーの野趣溢れるアレンジ、夜の闇とジャングルのざわめきの向こうに聴こえる、ピアノとビブラフォンの合奏に身を委ねたい。しかし、ふと思うのは、音楽家としての息の長さ。デニーがハワイに渡ったのは、43才の時であり、それから10年以上に渡って、様々な音楽上の実験を試みながら、何十枚ものアルバムをリリースし、エキゾチックサウンドを世に浸透させて行く。ミュージシャンとして、なんて素敵な人生だろう。そしてそれが、43才から始まることがあるなんて。僕は今年、43才になる。
ベリー・ベスト・オブ・マーティン・デニー
ベリー・ベスト・オブ・マーティン・デニー