シークレット・オブ・マナ

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ずいぶん昔の話になるが、「Secret of Mana」というCDについて、少し書きたい。1993年にリリースしたこのCDは、ゲーム「聖剣伝説2」が発売された直後、秋もまだ深まらない残暑の頃に、制作を始めた覚えがある。アレンジバージョンと言いながら、実際には、聖剣伝説2のメロディの断片と、後に聖剣伝説3となるはずのメロディの断片を紡ぎ合わせ、このゲーム世界に通底するなにかを掴みながら、僕自身の音楽のあり方を捉え直したい、というような、少しばかり冒険的な意図を秘めた試みだった。

手元に資料が無いので、間違いもあるだろうが、記憶を頼りに書いてみることにする。アレンジバージョンを作る話が出たのは、まだゲームが発売されていない時期だったと思う。それを受けて、僕が最初にしたことは、作曲作業のための準備、つまりは、楽器や作曲用ソフトウェアや、必要となるものを揃え、いざメロディーを具現化するときに問題が起こらないよう、諸々の手筈を調えることだ。聖剣伝説2のゲーム本編で使われた音楽は、とある事情からCubaseというソフトウェアで作曲していたのだが、僕はもともと、Notator(ATARI)使いであり、短期間で曲を仕上げることを考えると、そちらの方が圧倒的に効率が良いので、Secret of Manaは、ATARI1040STというパソコンと、Notator SLというソフトウェアで制作した。Notatorの良いところは、オーケストラ向けの20段の譜面が実用的な精度で作成できるとともに、必要な音楽データをエディットするのに、いちいち余計なウィンドウを開かなくて済む簡便さである。僕は現在、Logicという、Notatorの後継機種であるソフトを使っているが、細かく多用な操作が出来る反面、その手順は非常に煩雑になってしまった。結局、Notatorほどシンプルで高い操作性を持った作曲用ソフトウェアは、これ以降出ていない。

打ち込みを主体としたアレンジながら、音源として、いわゆるシンセサイザーはまったく使わなかった。その代わり、アカイのサンプラーAKAI-S3000を4台ほど積み、ハードディスクを音色データでいっぱいにして、どのような音楽性にでも対応できるようにした。その他には、音源モジュールとして、お馴染みのPROTEUS2。マスターのキーボードには、サンプラーとして高い性能を持つ、ENSONIQ EPS16+。その他、ラックの中には、ROLANDのディレイや、お気に入りのLEXICONのリバーブが、2台ほどあったと思う。サンプラーは、鳴らすべきデータが無ければ、ただの箱だから、世に流通している音色データの中から、自分の好みのものを選び出し、いつでも使えるように整理して、ハードディスクの中に並べる作業に、1ヶ月ほどかかった。

作曲は、新宿にある、TAKE1というレコーディングスタジオに、2週間ほど通って行った。スタジオの一室に、持ち込んだ機材をセッティングし、鍵盤の前に座り、ひたすらにデータを打ち込む。全部で50分ほどの曲を、1トラックで構成するというコンセプトは、既に決めてあったが、どのような雰囲気にするかなどの具体的なイメージは、まったく考えておらず、キーボードに向かい、手を置いた瞬間に心に浮かんでくるものが全てだった。50分というのは、普通の曲に換算すれば、15曲分に相当し、それを2週間で完全な形にアレンジするというのは、結構忙しい作業であり、もともと、悩んだり考えている時間などないのだが、面白いことに、創作にとっては、それが良い方向に影響する場合も多いのである。サンプラーのメモリーや、データの重さなどから、全体を、7つのブロックに分けて作業を進めていった。曲の最初から最後まで変わらないのは、♪=70(140)というテンポだけで、その他はルールを作らず、自分の持つ、ありとあらゆる音楽スタイル、アレンジのバリエーション、仕掛けのアイデアを、閃くままに組み込んでいった。余程の音楽通でなければ気付かないと思うが、あちこちに、過去に自分が影響を受けたミュージシャンへのオマージュを散りばめたのは、今、自分が作曲家として存在することのへの喜びの裏返しだったのかもしれない。

長くなったので、以下次号。(笑)